大型プロジェクトでの学び

総合電機、総合商社、テレビ局のシステム部門で全社規模の大型プロジェクトを経験した後、電子カルテや臨床検査を行う臨床検査企業のIT担当役員として自ら企画した構造改革を行いました。臨床検査企業では、M&Aで全国10拠点に乱立した基幹システムを新しい構造で統合しました。

名古屋大学工学部原子核工学科を卒業した後、総合電機へ入社しました。入社したきっかけは、ゼミのくじ引きです。実はパチンコ、麻雀、ビリヤードで3年留年しています。ある日卒業しようと思い立ち、京都大学が持っていた原子炉で研究しながら、缶詰状態で卒論を書き上げました。出てきたのは卒業する年の2月。就職先を決める際、コンピュータ系の大手総合電機３社の中からくじで選べ、と言われ、面接に行くと合格しました。当時金融系の第３次オンラインブームの真っただ中で、文科系の人間がSEになった時代です。３回留年した者でも採用してくれた。その総合電機企業は本当に度量の広い会社です（笑）。

総合電機で取り組んだのは、社内のグローバルネットワークの構築です。内部調達での100億円規模のプロジェクトなので、社外で行うと莫大な金額になるはずです。その頃から大型プロジェクトに夢中になりました。入社5年目ぐらいで結婚しました。残業２００時間が当たり前の時代です。妻から「そんなに働いて、手取りがいくらか分かっている？」と問い詰められ、会社を替わるよう強制されました。妻と義母が三井物産の募集が載っている新聞を持ってきて「絶対受けろ！」って感じです。総合商社が正式に中途採用を取った第1号となりました。

総合商社で担当したプロジェクトは、営業現場のやり方を変えるという内容でした。営業毎にシステムがあり、独立採算制を徹底しようというプロジェクトで、アーキテクチャから設計しました。１人1台200万円ぐらいの機械を配って設計するという破格のものでした。Windows3.1が登場し、もっと安くシステム構築ができるダウンサイジングへと時代が移り変わる頃です。全面的にユニックスのサーバーに置き換える200億円規模の大プロジェクトで、日本初のUTPケーブルによる社内LANを張りました。

総合電機では工場実習などをさせてもらい、物作りの基本を学びました。総合商社ではお金の流れと考え方、商社のノウハウを学びました。総合電機、総合商社の順で学ぶことができたのが今に生きています。総合商社で7年間のプロジェクトが終了した後、次のことを考え始めました。英語もできないし、商社のビジネスにもあまり興味がなかった。ちょうど地上デジタル化の波がやってきていた頃で、テレビ局の募集を見つけて今度は「自分」で応募しました（笑）。

総合商社でダウンサイジングした経験を生かし、地上波デジタル対応と本社移転の全社規模の業務構造改革を策定しました。当時、テレビ局の世界はまだまだホスト中心でした。地デジ対応への切り替えと、本社を移転する時期が重なり、システムが動くまでに時間がかかりました。最終的にはなんとか動かして、デジタル放送もできたのですが、「そもそもテレビ局の業務を知らない人間がやったから遅れた」と言われて、違和感を覚えました。

アプリケーションの世界は、業務を知っているSEや会社を選ぶという風潮が昔からあります。業務を知ることは確かに重要です。しかし業務を知らないとシステムが作れないならば、業務を知っている以上、自分たちですでにやっているはずですよね。効率的になる方法は業務に携わっている人が一番知っているという、業務中心の考え方は、日本の悪い癖です。仕事というのはこういうものだ、と知っているのではありません。業務を知っているというのは手順を知っているということ。当時から違和感があったのですが、反論できなかった。今は確信しました。そんなことを言う人は間違っています。

圧倒的に業務です。業務効率を向上することは、現場が楽をしたいだけ。業務や仕事の本質を知らないといけない。現場をよく知っていることと上手くシステムを作ることは別物です。当時の発想は、仕事とは業務をする機能の集合体というものでした。これは元々経理や給与計算のシステムに由来する発想です。その発想で適応しようとするからおかしくなってしまう。未だにその発想から抜け切れないSEの方が多いのが現状です。